U 映画業界の現状

 

1.映画市場

 日本映画産業は1950年代半ばのテレビの普及に始まり、ビデオの登場、余暇の多様化を背景として衰退の一途をたどってきた。これを顕著に現しているのが、観客動員数が全盛期の10分の1になったことであろう。このため、映画館での収益構造もかつての薄利多売から、より少ない観客からより高い鑑賞料金を取るように変わり、現在の高価に感じられる料金設定となったのである。こうして、ますます人は映画館から離れていったのである。

<表1 日本映画産業の推移>

 
映画館数
観客動員数
興行収入
配給収入
邦画本数
洋画本数
1955年
5,184
8億6900万人
546億円
318億円
423(8)
191
1960年
7,457
10億0100万人
728億円
390億円
547(2)
215
1965年
4,649
3億7300万人
755億円
328億円
483(218)
265
1970年
3,246
2億5500万人
824億円
287億円
423(202)
236
1975年
2,443
1億7400万人
1307億円
515億円
333(177)
225
1980年
2,364
1億6400万人
1659億円
634億円
320(201)
209
1985年
2,137
1億5500万人
1734億円
694億円
319(190)
264
1990年
1,836
1億4600万人
1719億円
710億円
239(181)
465
1995年
1,776
1億2700万人
1578億円
685億円
289(225)
321
1998年
1,993
1億5300万人
1935億円
873億円
249(184)
306
出所:『キネマ旬報イヤーブック1999』p.452から作成              *( )内は独立系製作

 現在、日本の映画鑑賞の市場規模は1935億円、一企業でこれ以上の売上のある企業が存在することを考えると小さな市場規模であるといえる。

<表2 レジャー産業の市場規模の比較>

レジャー産業
市場規模
施設数
ボーリング
1,680億円
1,173ヶ所
映画
1,935億円
1,993スクリーン
ビデオレンタル
3,860億円
9,031店
カラオケ
6,400億円
14,847店
出所:『日本映画産業最前線』p.30

 表2から他のレジャー産業と比較しても市場規模小さく、レジャー市場全体(約80兆円)からみれば0.21%しかないのである。しかし、映画には市場規模には現れない影響力というものが大きい。斜陽産業と言われているにもかかわらず、冒頭で挙げた作品をはじめとする映画ソフトはあらゆる分野に影響を及ぼし、社会現象までも引き起こすのである。 次に、日本と欧米各国の映画市場データを見てみる。

<表3 日本と欧米各国の比較>

 
日本
アメリカ
フランス
イギリス
市場規模
1,935億円
6,600億円
920億円
850億円
自国映画封切り本数
278本
421本
160本
65本
スクリーン数
1,933
30.825
3,900
2,200
1スクリーン当たりの人口
63,000人
9,000人
25,000人
27,000人
平均観賞料金
1,260円
460円
800円
590円
観客動員数
1億5,300万人
13億9,000万人
1億2,500万人
1億4,800万人
年間観賞回数
1.22回
4.88回
2.42回
2.25回
出所:『日本映画産業最前線』p.28〜p.53から作成

 ここで注目すべきは、市場規模でありアメリカの約3分の1ながら日本は世界第二位を誇っている。だが1998年観客動員数が1億5000万人を突破し、年間鑑賞回数も1回を超えたと騒がれたが、欧米各国と比較すると低いのである。にもかかわらず、この市場規模を維持しているのは高い鑑賞料金のためである。

 

2.映画産業の構造

 映画産業は大きく分けて、「製作」「配給」「興行」の段階に分かれる。 「製作」は製造に該当する。東宝・松竹・東映の大手3社(メジャー)と独立系製作会社(インディペンデント)に分けられる。「配給」は卸に該当する。映画をいつ、どのぐらいの期間で、どの劇場でかけるかを決定する役割を負っている。映画というソフトを流通させるのが配給で、宣伝広告の役割も担っている。ここでも邦画配給会社は大手3社(東宝・松竹・東映)とその他2社(日本ヘラルド・ギャガ・コミュニケーションズ)に分けられる。「興行」は小売に該当し、映画館のことで、邦画系映画館、洋画系映画館、ミニシアターと分類される。

 映画産業を考える場合、この3つの段階、関係を常に頭に入れておかなければならない。また、日本では大手 (東宝・松竹・東映)がこの過程をすべて行っているが、アメリカでは禁止されており、製作と配給はできても興行までを同じ会社で行うことはできない。

@資金回収 
一般に映画事業の収支は、映画館でのチケット総売上である「興行収入」を起点として、この中から配給会社に支払う映画料(興行収入の50%前後)を差し引いたものが興行会社の収入となり、配給会社が受け取った映画料が「配給収入」となる。この配給収入から宣伝費・プリント費・配給手数料等を差し引いたものを配給会社と製作会社で分配していく構造になっている。つまり興行収入の配分は映画館、配給会社、最後に製作会社の順に行われることになるため、各当事者の収益は興行の成否次第となり、作品が興行的に不評である場合には配給会社、製作会社の投下資金が回収できない事態が起こり得る。とりわけ興行収入の配分が後位となる製作者の背負うリスクは大きく、自由な作品づくりが進まない原因にもなっている。このため、大手3社はリスク回避の観点から近年自社製作作品の本数を減らし配給面での強化を図る傾向にあり、東宝にいたっては利益率の高い不動産事業の強化で成功を収めている。現在、独立系製作会社が映画を作り、大手がそれに出資し配給するという形態が最も多い。(図1参照)

 その独立系製作会社であるが劇場を保有しておらず、大手全国チェーン(邦画系・洋画系)で上映するか、単館(ミニシアター)で上映するか選択しなければならない。大手に乗せようとすればそれだけ資金が必要となり、大手配給会社に配給手数料、その他経費を搾取されるので独立系製作会社の取り分は少なくなる。逆に単館上映だと、映画館数が少ないため興行収入が上がらず制作費の回収が困難となる。つまり独立系製作会社は「百館公開(ロードショー)か一館公開(ミニシアター)か」という極端な選択を迫られるわけである。邦画製作費はとても極大市場で成功できるだけの大きさではなく、逆に極小市場では採算が合わない程度の、中途半端な製作費(3億円程度)が普通である。つまり、邦画が成功しない要因の一つとして市場規模が合わないということが考えられる。

 以上「製作」の特徴をみてきたが、次に「配給」と「興行」の関係について論じる。

A映画流通
  映画配給の方式は邦画系と洋画系で大きく違ってくる。 邦画系については、「ブロックブッキング」というシステムがとられている。ブロックブッキングとは、配給と興行が一体になって年間のラインナップを組んでいくことで安定した作品供給を行うことで、大手3社(東宝・松竹・東映)がそれぞれの契約館を中心に自社作品を専門に配給、興行することである。つまり、「ドラえもん」は東宝系映画館で、「寅さん」は松竹系映画館で絶対に上映されるということである。ブロックブッキングは計画通りに製造、消費されるということで流通の視点から見れば理想のシステムだが、これが日本映画産業の衰退の原因と言われている。

 洋画系での配給システムは「フリーブッキング」と呼ばれている。フリーブッキングは、原則として配給会社、興 行会社の自由競争という形で市場を形成するのだが、日本では 2つの大手興行チェーンに独占されている。東宝(TY)系と松竹・東急(SY)系であり、それぞれ60%、25%のシェアを占めている。洋画配給のメジャー(UIP、20世紀FOX、ブエナ・ビスタ等)も日本で全国ロードショーするにはこの2系列と交渉するしかないのである。 もう一つの興行形態、ミニシアターであるがこれは全国ロードショーではできないニッチ市場を狙った映画館である。基本的に経営者自身が上映する映画を決定し、大手配給網に乗らなかった芸術性の高い作品を上映することでニーズの多様化時代に対応したものである。

 ところで、映画において最も効果を発揮する宣伝は何だろうか。それは「口コミ効果」ではないかと考える。アンケートからも映画鑑賞の情報源として雑誌、CMと並び「知人」というのが高い割合を占めていた。映画という商品は機会主義であるため、実際に鑑賞してみなければその商品の善し悪しは分からないのである。しかし実際に鑑賞した知人からの情報であればその宣伝効果は大きい。ミニシアターでは宣伝費に投資できないかわりに、この「口コミ効果」が最も効果を発揮するのである。その例として1989年に「ニュー・シネマ・パラダイス」がミニシアターで40週(約10ヶ月)のロングランヒットとなった。ところが、この「口コミ効果」はブロックブッキングではその効果を発揮しないのである。ブロックブッキングは配給会社が設定した年間スケジュールに従って上映しなければならず 、「口コミ効果」が現れる頃には上映を打ち切らなければならないのである。これはビジネスチャンスを逃していることになる。逆にどんなに興行成績の悪い映画でも決められた期間は上映しなければならないのである。この現場(映画館)に意思決定権がないところにブロックブッキングの問題点の一つがある。それでもなぜ映画館が配給会社に従うかいうと、配給会社が絶対に観客が入る最終兵器を持っているからである。それは、東宝では「ゴジラ」「ドラえもん」であり、松竹では「寅さん」「釣りバカ日誌」であり、東映では「東映マンガ祭り」である。これらにより配給会社は映画館を支配し、映画館はトータルで黒字を約束されているのである。それではブロックブッキングは優れたシステムであると言えるかもしれない。しかしもっと大きな目でみると、ここにブロックブッキング最大の問題点がある。つまり、配給会社は決まった系列館に作品を供給する、映画館は配給された映画を上映するだけで黒字となるので、そこに営業努力が存在しなくなるのである。そして製作はブロックブッキングに縛られた映画作り、つまり年間ラインナップを埋めるためだけの映画作りとなり、結果的に映画の質は低下し観客が離れていったのである。ブロックブッキングでは適度な緊張感がないためにモチベーションが下がり映画産業衰退の原因となったのである。

 

3.日本映画産業活性化

 これまでみてきたように、日本映画産業は大手3社による排他的なシステムであると言える。それが新規事業 者の参入を困難なものとし、自主的な営業努力の必要性をなくし、映画産業全体の活性化を阻害してきたのである。映画産業が復活するには大手3社による硬直化した産業構造の改革が必要であり、それはつまり、製作・配給機能と興行機能の分離であると考える。

 そこで斜陽産業と言われて久しい映画産業であるが、この製作・配給と興行の分離を大前提として復活の糸口を探してみた。

<表4 レジャー産業の参加希望率>

 
参加率
参加希望率
ビデオ鑑賞
45.4%
37.3%
-8.1%
音楽鑑賞
41.9%
36.8%
-5.1%
ガーデニング
34.7%
34.9%
0.2%
映画鑑賞
34.0%
38.5%
4.5%
出所:『レジャー産業のマーケティング戦略』p.72

 映画鑑賞の参加率は低いものの、参加希望率は高く潜在的需要があることを示している。の潜在的需要を掘りし、映画産業を活性化させるためにはどうすればいいか考えてみる。

@ソフト面の強化
Aハード面の強化

 @まず、ソフト面の強化である。これは良い作品が増えれば自然と映画館に足は運び、興行収入がアップし製作会社も製作費を回収でき、また良い作品を作ろうとする余力ができるという循環を生み出すのである。これはアメリカがとった方向で、テレビの登場の影響を受け沈みかけた映画界は"大作化・大量化"という手段で製作費・宣伝費ともに莫大な金額をつぎ込み、スクリーンに人を引き戻すことに成功した。しかし、日本ではそれだけの資金を集めることは不可能で、日本独自の方向を見つけなければならない。

 ここで映画ソフトというものの特徴を考えてみる。映画ソフトは陳腐化が激しく、劇場公開――ビデオ化――ペイTV――衛星放送――地上波放送という流れになるが、この約2年間に売上の90%が計上される。価値の低下が激しく賞味期限2年の商品に、実に数億円から数百億円という投資がなされる。にもかかわらず映画ソフトに対するリピート率は極めて低い。それゆえに短期決戦型商品であるが、いい商品(映画)が必ずヒットするとは限らないのである。映画ソフトとは扱いにくくリスキーな商品なのである。

 冒頭で挙げた「もののけ姫」や「踊る大捜査線 THE MOVIE」等の映画ソフトの大ヒットは確かに映画館に人を引き戻し成功といえるが、それは一過性のものである。長期的な映画産業の活性という視点からだと、商業的に成功を収める作品が続かなければ意味がなく、映画ソフトの特徴からそれは難しく、ソフト面の強化より先にするべきことがある。それが日本の映画インフラを整備するハード面の強化である。

 A私が考えるハード面の強化とは興行の改革である。映画ソフトの強化がトップダウン式の改革であるとすれば、ハード面の強化は観客に最も近い映画館からのボトムアップ改革であるといえる。つまり、映画館に行きたくなるような環境を作れば、自然と映画人口は底上げさえ、映画市場は活気付くようになる。それは製作にとっても資金回収の機会が増えることになり、より自由な映画製作が進み、またそれを観る人が増えるという好循環を生み出すのである。

 だが現状では例え良い映画ソフトがあっても、映画館に足を運びにくい状況である。私は何よりも先に映画館に人が行きたくなるような環境を作ることが重要であると考える。そこで、興行形態の改革がいかに日本の映画産業を活性化させるということを論じていく。